【研究内容紹介】中田瑞穂先生

取材日:2018/12/8

▽現在の研究分野は何ですか?

 私の主な研究内容は、チェコスロバキアの政治史です。現在はそこから発展して、2つの研究分野に力を入れています。

 1つ目は、第二次世界大戦後のチェコスロバキアの研究をしています。それは政治史の研究で、主に歴史研究になります。

 2つ目は、「新しい民主主義」と言われる一連の国の研究です。1989年以降、民主化したチェコスロバキアやポーランド、ハンガリーといった新しい民主主義諸国の研究から、民主主義の現状を研究しています。具体的には、政党政治やEU加盟問題、社会保障政策、ジェンダー問題など色々な切り口から研究していますね。

 研究方法は、他の国との比較や、共同研究などが多いです。例えば、ポーランドやハンガリーなど、様々な国の研究している人たちと一緒に「社会保障の観点で書いてみよう。」といった感じで研究します。このような共同研究により、私がチェコスロバキアを研究した事の位置づけが分かるというか、新しい民主主義諸国あるいは社会主義国から変容しつつある国々がどのような問題を抱えているか、そして、それぞれの国がどのようなアプローチで問題に取り組んでいるかという事が見えてきます。

▽研究分野の魅力は何ですか?

 現在の研究の面白さは一言では言えないのですが、それぞれに魅力があると思います。

 まず、チェコスロバキア史は、政治学の様々な問題が含まれていると思うので、20世紀における政治学の根本原因に値するような問題を研究するのに、適した対象である事が魅力だと思います。例えば、国民国家としてのチェコスロバキアは、第二次世界大戦後に作られました。でもその中には、何百万人ものドイツ人がいたり、チェコ人とスロバキア人は別の国民だったりしました。こうした独特の問題を抱えている国が、どのように対応しているかを見ていく中で、「国民国家」や「国民」とは何なのかという、20世紀の政治の根幹に関わる部分を考える事ができます。

 また、代議制民主主義という仕組みを理解する上でも、面白いと思います。例えば、戦間期(1919-1939)のチェコスロバキアには、20から30ほど政党があった多党制の時代がありました。それにも関わらず、なぜ安定した民主主義が作れたのかという、代議制民主主義という仕組みを理解する上で、面白い分野だと思います。

 新しい民主主義諸国には、広い意味では韓国や台湾なども含まれます。そのような国々が、民主主義を安定させる事ができるか、という問いに答えたいと思っています。

 そして、「民主主義の形の変容」をダブルで追いかけられる点も面白いかなと思っています。これまで新しい民主主義諸国は、1980年代から90年代のヨーロッパの西側の政党政治を目指してきましたが、西欧の政党政治自体がどんどん変わってきています。現在日本やアメリカも含め既存民主主義諸国で、民主主義の在り方が変わってきているのです。ヨーロッパで言えば、政党には多くの党員がいて、ある程度明確なイデオロギーがあり、その上で社会の中に根差した政党がありました。しかし、現在は、党員が減少したり、有権者と政党の結び付きが非常に揺らいだりしています。

 日本でも同じ事が言えます。例えば、自民党以外の政党の中で、市民と密接な結びつきを持っている公明党と共産党は、党員の高齢化によって勢力が衰退しつつあります。社会における根っこがどんどん細まっています。自民党も勢力は維持されていますが、都市部においては弱いですよね。時代の雰囲気や、今はもう自民党以外の選択肢が無いという理由で、自民党が支持されています。つまり、現在の政党は社会と固定的なリンゲージ(連係)を持っていないと言えます。

 地方では、個人後援会に入る事や、「うちの本家は○○先生にずっとお世話になってるから、△△党に投票する。」などの地縁や血縁による結び付きがありますが、都市部ではほとんど感じられませんし、地方でも高齢化は進んでいるので、将来的には都市部と同じようになると考えられます。このように、政治の代議制民主主義の形は変わる中で新しい民主主義諸国が代議制民主主義を作ろうとしています。

 そのような「目標の無さ」を見ながら、民主主義の形の変容のようなものをダブルで追いかけているという形が面白いかなと思っています。変わったタイプの政党がどんどん出てくる、企業のような政党が生まれる、あるいはハンガリーのように自由主義的じゃない政党が生まれるなど、レガシー(受け継がれる遺産)が少ない分、新しい政党政治の在り方がクリアに出てくる事があって、とても面白いです。

 あと、あまり多くの人が取り組んでいる分野ではない事や、チェコという国自体も実際に留学してなかなか面白いなと思いました。

▽この研究を志したきっかけは何ですか?

 大学2年生の時に取ったヨーロッパ政治史という科目が面白かったので、大学3年生の時にその分野のゼミに入りました。そのゼミは大学院生と合同のゼミだったので、学部生は胸を借りるみたいな感じで良かったのですが、先生と大学院生の議論を聞いていると、とても良い刺激を受けて自分ももっと勉強してみたい、研究者になりたいと思うようになりました。

▽今後の研究目標は何ですか?

 まずは、第二次世界大戦後のチェコスロバキアの政治史研究をまとめたいと思っています。また、政党の変容問題については、現状がどんどん変わっているので何とも言えませんが、だからこそ研究を続けていきたいなと思っています。あとは、ポピュリズムの研究もやっていきたいです。

▽学部生時代はどんな学生でしたか?

 学部生の頃は普通の学生でした(笑)。法学部だったのですが、授業を理解してついていこうと思うと、そこそこ勉強しないといけないので、そういう勉強はしていました。

 法学部は、一類・二類・三類という風に分かれていて、一類が司法、二類が公法、三類が政治でした。私は二類に行っていて、政治を勉強しようと思ったのが、3年生の後半くらいでした。それまでいた二類の公法のままでも、分野の必修をしっかり取っておけば、自由に政治学系の授業を取る事もできましたし、政治学を大学院で専攻できたので、転類しませんでした。

 今思い返すと、その選択をして良かったと思います。公法で法解釈などの訓練を受けた事は、研究者として役に立っていると思います。また、行政法を学ばないと、行政学もなかなか理解できませんし、国際政治と国際法など、それぞれ補完的な役割があるので、法律を勉強した事も良かったと思います。何よりも、体系的に多くの科目を集中的に勉強した事が、当時は大変でしたが役には立ったかなと思いますね。

 それから、ヨーロッパ政治史も面白いと思ったので、自分で大分本や論文を読んだり、ゼミは英語文献も読まなければいけなかったので、そのような勉強にも力を入れたりしました。

▽学生の間に読むべきオススメ1冊は何ですか?

 難しい本なのですが、私が翻訳した、マーク・マゾワー(1958‐)という人の『暗黒の大陸:ヨーロッパの20世紀』(2015、未来社)という本です。これは、ヨーロッパの20世紀の歴史について書かれています。20世紀の歴史を知る事で、自分が立っている位置がどこか分かりやすくなると思います。どのような経路を辿ったのか、どのような回り道を行ったり来たりしたのか、なぜこの道が突然切れてしまったのかなど、様々な状況を含めて、今自分がいる立ち位置の背景が分かるようになると思います。

 歴史を学ぶという事は、今自分たちが「ここにいる」というコンテクスト(文脈)が、どのような場所にあるのかを知るために、とても大事なことだと思います。

 例えば、20世紀は「国民の量と質を高めて、他の国民に勝つ」事が重要視されていました。例えば、ナチスはドイツの国民遺伝子をより良い物にするという、優生学的な発想の下、ユダヤ人をホロコーストに送ったり、精神障がい者の断種、虐殺などを行いました。他にも、ポーランド人の親に任せて置いたらダメになるといった発想の下、ポーランド人の子どもたちをドイツ人の養子にして、より「良い」子どもをアーリア人として受け入れました。同じように、日本やヨーロッパ、スウェーデンのような国でも、精神障がい者の断種は長い間ずっと行われていました。その当時は、特に違和感のない考え方でした。

 ナチスは極端な形で推し進めたので、衝撃がありましたが、その考え方の多くの部分は、広く共有されていました。それは我々の社会にも様々な形で残っています。国民の質の考え方もそうですし、経済問題や文化問題などもそうです。このような多様な問題について、ヨーロッパ全体をカバーしながら、多角的に考えられるおすすめの本です。

〇中田 瑞穂(なかだ みずほ)国際学科教授

東中欧比較政治史・比較政治/政党政治とデモクラシーの関係、市民社会組織のデモクラシーにおける役割

東京大学法学政治学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(法学)。立教大学法学部 助手や名古屋大学大学院法学研究科教授を経て2012年から明治学院大学国際学部国際学科教授。

著書に『「農民と労働者の民主主義」―戦間期チェコスロヴァキア政治史』(名古屋大学出版会)や『ヨーロッパのデモクラシー』(共著、ナカニシヤ出版) など。

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