▽現在の研究分野は何ですか?
人文地理学の立場からネパール地域研究をしています。興味関心は、ネパールの近年の変化と移動現象にあります。
ネパールは20世紀半ばに開国してから、ものすごい勢いで変化しています。1993年に私が初めてネパールに行った時は、村では子供たちが裸足で、大人でも電話の使い方を知らない人が多くいました。
それが今では、当時電話のかけ方を教えたおじさんたちに、私がiPhoneのビデオチャットのやり方を教えてもらうようになりました。こういった急速な変化に興味があり、調査をしています。
▽この研究分野を志したきっかけは何ですか?
大学院では中国研究をしたかったのですが、先生の指示でやむを得ずネパール研究を始めることになりました。テーマは実際にネパールに行って自分で探して、最初はトゥーリズム現象に着目して研究を始めましたが、今はそこから多方面に広げて研究しています。
この自身の経験から学生の皆さんにお伝えしたいのは、教師に言われたことに最初は「嫌だ」と思っても、やってみると興味が湧いてくることもあるので、とりあえず試してみてはどうでしょう、ということです。
地理学に興味を持ったのは、小学生の頃に、本多勝一(1931‐)の『極限の民族』という本を読んだことがきっかけでした。その本は、著者がパプアニューギニア(オーストラリアと東ティモールの近くに位置する)などを訪れ、現地の人と服を交換したり、写真を撮ったり、現地の人の声をつぶさに聞いてルポルタージュとしてまとめたものでした。
現地の人々に寄り添いながら様々な地域のことを伝える仕事に感動したのを覚えていますが、今ネパール地域研究をしているのも、その本の影響があるように思います。
▽今後の研究目標は何ですか?
これまでネパールでネパール地域研究を進めてきましたが、最近では移民が増加しているので、アイルランドやアメリカ合衆国でネパール移民の調査をするようになっています。
今後は、近年日本でもネパール人が増えてきているので、日本におけるネパール人の社会についても研究していこうと考えています。日本の「移民」を取り巻く環境はグローバル仕様になっていないので、外国の人々が日本で暮らすのは必ずしも快適とはいえません。そのような状況を明らかにして、環境改善につなげていければと思っています。
▽学生時代はどんな学生でしたか?
普段は、学業、アルバイト、バドミントン(のサークル活動)をしていました。長期休みは、旅行することが多かったです。
一番印象的だったのは、シベリア鉄道でユーラシア大陸を横断したことです。大陸の端から端まで横断したいと思い、当時は航空運賃が安かったローマに飛行機で飛び、地中海沿岸を鉄道で移動し、スペインのアルヘシラスというところまで行きました。
そして、ジブラルタル海峡をフェリーで渡って北アフリカのモロッコに足を延ばして、ユーラシア大陸に戻ってから再び鉄道でフランスへ、当時はユーロトンネルがなかったので、フェリーでイギリスに渡り、またフランスに戻ってからドイツ、ポーランドを抜け、モスクワからシベリア鉄道で東へ向かい、イルクーツクで南下し、北京に行きました。
北京からは列車で上海を経由して広東へ、香港返還前だったので(1997年7月1日に、香港はイギリスから中華人民共和国に復帰した)、広東からは国際列車で香港に行き、香港から飛行機で帰国しました。
大学生の時に知り合った友人とは今でも付き合いがあります。
▼ユーラシア大陸横断の際に訪問した都市
▽学生の間に読むべきオススメの1冊は何ですか?
鶴見良行(1926‐1994)の『ナマコの眼』です。ナマコに目がないことを知っていますか?ナマコには目がないけど、目があると仮定して、海底に沈んでいるナマコの目に映る世界の移り変わりを明かしていくという設定です。
鶴見良行さんは、東南アジアの島々でフィールドワークをしてたくさんの本を出版されています。初めに読んだのは確か中学生か高校生の時で『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ』でした。大学生になって『ナマコの眼』を読んだのですが、緻密なフィールドワークが印象的でした。現地で人々の話をしっかり聞きつつ、史実に基づいて周縁から世界を描こうとする、今の時代にも通じる名作です。学生の皆さんに鶴見良行全集をおすすめします。
『ナマコの眼』は文化人類学や歴史、東南アジアに興味関心がある学生に良いと思います。ぜひ読んでみてください。
(取材日:2018/11/16)
〇森本 泉(もりもと いずみ)国際学科教授
ネパール地域研究/トゥーリズム現象、移動をめぐる社会文化的変容
お茶の水女子大学文教育学部地理学科卒業。同大学院人文科学研究科地理学修士課程修了。同大学院人間文化研究科比較文化学専攻を単位取得満期退学、博士(社会科学)。2001年に明治学院大学に着任し、現在は教授として人文地理学、地誌概説、南アジア地域研究などを担当する。人文地理学会、南アジア学会、日本地理学会、経済地理学会など複数の学会に所属。
著書に『ネパールにおけるツーリズム空間の創出』などがある。