▽現在の研究分野は何ですか?
自分の研究の主なテーマは仏教の社会史です。特に、江戸時代(1603–1868)の農村において、仏教寺院がどのような役割を果たしたのか、住職がどのような活動をしたのかなどに注目して、江戸社会を研究しています。
最近はこのような観点をふまえてもう少し幅広く、近代化における仏教の果たしていた役割についてや、PRIME(明治学院大学国際平和研究所)の研究を通して、仏教を含めた、宗教と社会や暴力の関係性についても興味を持ち、研究をしています。例えば、仏教は平和的な宗教というイメージが強いですが、実際には、仏教僧が「ロヒンギャ問題」に積極的に参加している問題などがあります。
また、私は宗教以外にも、歴史や写真も好きです。その為、私は写真の研究員はやっていませんが、いつかメディアと宗教についても研究したいと考えています。
▽研究分野の魅力は何ですか?
私は歴史が好きなので、昔の人がどのような生活を送っていたのかについて、興味があります。我々の周りにあるものの歴史を意識する事はあまりありませんが、昔の人の生活が今の我々に、どのような影響を与えているかを改めて実感すると面白いと思い、それが魅力だと思います。
また、今日のグローバル化において、様々なエスニシティ(出自や宗教、言語などによって個人が集団に属すること)や民族を超える問題が多くありますが、価値観は各民族、各文化、各国の背景などに影響されているので、改めて歴史の意味を考えることが、重要になるのではないかと考えています。
▽この研究を志した理由は何ですか?
1970年代に高校に入学した時、私はヨーロッパにおける政治状態や経済に関しての関心が強かったので、アジアに関してほとんど関心がありませんでした。
しかし、私の高校に日本や韓国出身の学生がいた事や、母が1979年に再婚し、再婚相手とグループツアーで日本に行き、たくさんお土産を持って帰ってきてくれた事がきっかけで、日本文化に興味を持ち始めました。
そして、私は高校を卒業した後、大学生活を支えるためにアルバイトを始めました。そのアルバイトは一般的なものではなく、ロッキー山脈にあるアメリカのワイオミング州のガス田で、非常に汚く、大変な肉体労働の仕事でした。昔はWebやiPhoneがなかった上に、その街には映画館もほとんどなかったので、仕事が休みの時は、小さな図書館に行って本を読んでいました。
そこはアメリカの田舎だったのですが、なぜか日本の写真集がたくさんありました。今振り返ると、職場が非常に汚くて危なくて辛かったからこそ、日本の美しい美術を映している写真が、より魅力的に感じたのではないかと思います。
このような出来事から、日本の文化は面白いのではないかと考えるようになり、大学で日本語を勉強し始めました。それにより一層、日本に関して興味を持ち、大学生の間に日本に留学しました。そのホームステイ先のホストファミリーと秩父巡礼(秩父三十四箇所礼所巡りが有名)に行った事や、「仏教に非常に大きな影響を受けた日本文化」に興味を持った事がきっかけで、日本文化を通した仏教について勉強するようになりました、
▽学生時代はどのような学生でしたか?
私は、アメリカの私立大学に進学し、友達も多くでき、コツコツ勉強していました。しかし、学生の多くがお金持ちだった一方、私はそうではなかったので、そのような点で、大学があまり合いませんでした。この経験が、別の世界を体験したいと思わせて、日本に行きたいと考えるきっかけの一つになりました。
また、大学内のサークルには入らず、日本人街にあった弓道をやっていました。このように、大学では一生懸命勉強はしていましたが、自分の個人生活は、大学から離れた場所で、日本との関係を深めようとしていました。
▽今後の研究目標は何ですか?
今後の研究目標として、今書いている、近世の仏教に関して論文の一つに、知人(プリンストン大学の大学の友達)にあることを頼まれました。西武ドーム(埼玉県所沢市)の近くにある新しくできた天台宗の寺院に、西武グループが西武ライオンズや西武グループの成功を祈るために、徳川家と関係があった紋や石堂を置いているのです。
それがなぜ置かれているのかについての研究があり、これを研究論文に出そうと考えています。また、宗教と社会や暴力の関係性についての問題もこれから研究していく予定で、来年の2020年くらいにシンポジウムを開きたいと考えています。
▽学生の間に読むべきオススメの1冊は何ですか?
学生はグローバル化の問題をより深く理解するべきです。私が大学生の頃は、アメリカ対ソ連の政治的連盟や経済的連盟など、世界の見方は国単位で形成されていました。しかし、今我々が直面している問題は、国境を越えているものが多いので、国境を超える体制は、どのようにして作られるのかという事をじっくり考えてほしいです。そのため、学生はそれに関する本を読むことが重要です。
その際、アメリカ人がアメリカについて書いたような本ではなく、他の文化圏出身の人がアメリカについて書いたような本の方が良いと思います。同じように、日本人について書かれた本を読む時も、日本人が書いた本ではなく、ヨーロッパ人やアフリカ人など、他の文化圏出身の人が書いた本の方が良いと思います。
(取材日:2018/12/21)
〇VESEY Alexander(ゔぃーしぃ あれきさんだー)国際キャリア学科准教授
近世在地仏教寺院と仏教教団の社会史/日本近世仏教文化史
プリンストン大学大学院東洋学部日本仏教史研究科博士課程修了。東洋学博士。2008年に明治学院大学国際学部国際学科に着任し、2011年から明治学院大学国際学部国際キャリア学科准教授。
著書に『Early Modern Japanese Urban Society and Competition Between Religious Groups. 』等。