入管法改正の解説と日本が抱える在日外国人の労働問題

取材日:2019/1/17

▽入管法とは何ですか?

 入管法とは「出入国管理及び難民認定法」の略称です。これは日本からの出入国管理一般を規律する法ですが、とりわけ外国人の出入国を管理することに眼目がおかれています。1982年1月1日に誕生しました。それまでは、「出入国管理令」という、日本が占領されていた時代に作られた政令が法律の効果を与えられて出入国管理を規律していました。それが入管法と略称されるようになたのです。

▽入管法は今回どのような変更がなされたのですか?

 日本に外国人が合法的に滞在するには在留資格が必要です。日本国籍を所持している人は日本に滞在するのに在留資格がいりませんし、日本から追い出されるということもありません。しかし、日本国籍を持たない外国人は日本政府から許可を得て初めて日本に在留できます。

 これまで在留資格は28種類ありました。一番長く滞在していいものだと永住資格あるいは特別永住権があります。他にも定住資格や、日本人の配偶者等という在留資格から、留学や、興業といった在留資格もあります。これらの在留資格のどれかをもたなければ、適法に日本に滞在することはできません。明治学院大学にいる留学生の人たちも留学という在留資格でいることがほとんどではないでしょうか。

 今回の改正はこれに2つの在留資格を付け加えました。特定技能1号と特定技能2号です。これが改正のポイントの1つです。もう一つのポイントは組織改編です。これまで出入国管理を司る政府の機関は入国管理局と呼ばれていました。

 法務省の中に、入国管理局が設けられていて、そこが出入国管理を担当してきましたが、その局を出入国在留管理庁という「庁」に格上げしました。要は、局から庁に格上げされたというのがもう一つのポイントです。

 つまり、今回の入管法の改正のポイントは2点あって、まず特定技能1号、2号という新しい在留資格を加えたというのが1点目。それからもう1点は入国管理局を出入国在留管理庁に格上げしたということです。

 

▽特定技能1号、2号というのはどのようなものか?

 今回なぜ入管法が改正されることになったのかという点ですが、政府は労働者不足の是正と説明しています。足りない人手を補うために外国人労働者が必要ということです。

 特定技能1号、2号に分類されていますが、政府の説明や法律によると、特定技能1号とは人手不足分野において相当の技能がある人のことを指し、2号とは人手不足分野で熟練した技能がある人のことを指します。これは法律の言葉や政府の説明なのですが、端的に言えば熟練した労働者は2号、熟練していない労働者、非熟練労働者、もっとストレートに言うと単純労働者(この単純労働者という言葉は政府は使いません)が特定技能1号と分類しています。

 今のところ特定技能1号は農業、漁業、クリーニング、飲食等の分野を14業種指定しています。5年間かけて、最大で34万5千人が日本に来ると見込まれています。特定技能2号は造船、建設の2種類が指定されていて、何人入れるのかという具体的な数字は発表されていません。

 特定技能1号で日本に来る人たちは、人手が足りない14業種を補うために来ますが、日本での滞在期間は5年間という限度があります。また家族を連れてくることはできません。ただ労働力をくれと言っているようにも感じられます。

 一方で、特定技能2号は期限がなくて家族を連れてくることもできるという違いがあります。日本の大学や職場でも非正規で雇用されて5年以上働くと、ずっとそこにいることができ、期限無く、そこに雇用される状態に移行することができます。だから企業は5年になる前に雇い止めをします。

 これと同じように「5年以上いると日本に居着くかもしれないので帰ってもらいます」ということなのでしょう。家族も連れてきていないので帰ってくれるだろうと考えているのかもしれませんが、やってくるのは労働力ではなくて、血の通った人間がやってくるので5年も日本にいたら「はい、母国に帰ります」というわけにはいかないかもしれません。だから、制度設計の構想と現実にはギャップが出てくると思います。

▽入国管理局から入国在留管理庁に格上げされることで何が変わりますか?

 今までの入国管理局というのは法務省の中の1つの部局でしたが庁という外局になると権限が大きくなり、力が強くなります。それと仕事の内容も膨らみ、今までは出入国を管理するだけでしたが格上げしてからは外国人を支援するという側面も新しい仕事として加わります。それから人員も増えるのではないでしょうか。入国管理局には入国警備官と入国審査官(空港や港で出入国を審査している)がいます。こうした人たちを増やすことになると、予算もたくさん必要となります。予算が膨らむのに比例して権限も膨らんでいくのです。

▽どのような外国人が来ることが考えられますか?

 日本に労働力を送るため、中間で労働移動を支援する団体が作られます。そこでどのように人集めをするかによりますが、基本的に人はより良い生活を求めて生きているので日本に行けばお金が儲かる、そして子どもにより良い教育を与えるためにお金がいるということであれば日本に行きたいと考えるでしょう。お金を手に入れてより良い生活を、そして自分だけでなく家族にもっといい生活を、子どもにもっと高い教育を、と願う人であれば若くても中年でも、日本に行こうと考えるのではないでしょうか。ただ日本語の能力を測る試験があって、試験を通らないと日本に在留できないことになっているので、その点若い人のほうが有利かもしれません。

▽この改正によってどのような問題点が出てきますか?

 今改定では労働力不足、人手が足りないことを前提に話してきました。最大の問題はなぜ人手が足りていないのかということです。さらに言えば、本当に人手は足りないのかということです。日本政府は、こうした点をあまり深く検討せずに外国人労働力を入れようとしているように見えます。

 まず、漁業や農業、介護、清掃業(クリーニング)等の特定技能1号に指定されている業種は労働条件が押し並べて悪いという実態があります。要するに賃金が低い、それで仕事がきつく、日本人は仕事に就きません。労働自体も大変ですが、待遇が悪すぎるため、そんなところで働くなら別のところで働くということで、それらの業種に人が集まりません。その処遇を引き上げ、賃金を上げたり、労働条件を良くすれば日本人が集まってくるかもしれません。労働力が足りるかもしれません。しかし、待遇改善は試みず、待遇が低いまま、そこに外国人労働者をいれるということになります。その結果、外国人労働者は劣悪な待遇を受けることになります。それ故、外国人労働者と日本人労働者との間に格差が生まれます。これはとても大きな問題です。

 外国人に大変な仕事を担ってもらい、日本人が給料の良い仕事をすれば日本にとっては問題ないのではないかと思われるかもしれませんが、低い労働条件が設定されている業種があると、そっちの方に賃金が引っ張られていきます。全体の賃金や処遇がどんどん低下し、劣化していく危険性が非常に大きいです。日本国民はいい待遇で問題ないと言っても、5年、10年後に自分たちも低い待遇に引き下げられているという危険性は大いにあります。外国人と国民を分け、外国人に低い労働条件を担ってもらうという意味で差別的であるし、自分は問題がないといって安心していられることではないのです。

Share

Follow