入管法改正の解説と日本が抱える在日外国人の労働問題

▽今改正による日本のメリットとデメリットは何ですか?

 経済界、政府としてはメリットとして人手不足を補ってもらうということで日本の経済成長に貢献してもらうといことなのでしょう。特にオリンピックが2020年にあるので建設現場やホテルなどの分野で人手が不足しています。また都会に人が集中してきて地方に労働力が不足しているため地方に行ってもらおうとしていますが、外国人労働者が本当に地方に行き、そこにとどまるのかは分かりません。

 もし本当に日本全国に足りない労働力を補ってくれるということであれば確かに日本の経済を支えるという意味でメリットはあるのかもしれません。しかし上で述べたとおり、外国人と日本人との間には労働条件の格差があり、長期的に見ると全体の賃金水準が下がっていくデメリットが大いにあります。また、外国人を人間と見るのではなくて労働力とみるということで非常に差別的な意識がこの法の改正にあります。そして何より見逃してはならないのは、入国許可を出す基準がもっぱら経済の要請に拠っていることです。つまり、経済の論理で国境の門が開き、場合によっては閉ざされるということで、国境と経済、市場の強い結びつきがはっきり見てとれます。

▽技能実習生と難民への影響は?

 特定技能1号、2号に加えて、技能実習生という存在がいます。この技能実習生というのは、日本で農業や介護などの分野で技能を習得し母国で生かしてもらうための制度です。

 母国で使うための技能を日本で習得するための制度なのですが、実態は単純労働を奴隷的に強いられていることが少なくありません。要するに、下請けの下請けの下請けと言いますか、日本社会の一番下の部分で一番劣悪な条件で労働を担わされている、現代的な形態の奴隷制と言われるような状態になっているわけです。

 この制度の根本的な改革がなされていない。特定技能1号の人も結局は単純労働ということなのでやはり技能実習生と同じように搾取され、奴隷的な労働を強いられるのではないかという懸念があります。

 難民が減るかどうかは、特定技能1号、2号との直接のつながりはありません。ただ、間接的なつながりがあります。というのも日本に難民としてやってきても日本政府から難民認定されない限り受け入れてもらえません。難民として認定されるまでに2年とか5年とか時間を要し、その間難民申請中の身分になります。

 その人たちをどう面倒をみるかというと、例えばドイツの場合は、国や州が丸抱えして住む場所を与えたり、食べ物を与えたりして難民申請中の生活を支えています。一方日本はそういうことはしません。その代わり働いてもらい自分で生活をやりくりしてもらうようにしています。したがって難民申請者は難民としての結論が降りるまでの間働かなければいけません。

 たとえば、これまでは「特定活動」という在留資格を与えられ、来日してから半年経て働けるようになる人が多かったです。そのような人たちがやっている労働は単純労働です。中には難民ではないが日本で働こうと考えて難民申請して働く人もいるでしょう。

 ところが、特定技能1号の人たちが難民申請者が就くような仕事を担ってしまえば、難民申請者という形でお金を稼ごうと日本にやって来る人たちは働き口がなくなってしまうのでその分難民申請者の数が減るかもしれません。そういう意味では難民申請者数に影響が出てくるかもしれません。しかし難民としての保護を真に求めている人は特定技能1号2号がどうあろうと本当に助けてもらいたいので直接的には関係ありません。

▽特定技能1号、2号として日本にくる外国人が増えるのであれば、明学生として何をしていけばいいですか?

 大きな問題として今回の入管法改正はすごい短期間の間にきちんとした議論もなく決まりました。5年の間に34万5千人特定技能1号を受け入れる、5年後さらに受け入れるということになります。それに加えて特定技能2号の人も受け入れていくということになると相当な数の外国人が日本で働くようになります。現在年間で訪日客が3000万人弱ぐらい来ていますが、働いている外国人も200万人ほどいると言われています。

 これからは、もっと大勢の外国人が日本で働くようになっていきます。特定技能1号は5年間しかいられない、家族は連れてきてはいけないという条件ですが、日本で生活していくと当然いろんな人と知り合い交流が深まり、もしかすると家族ができるかもしれない。それゆえいろいろな悩みや問題が起きてくる可能性があります。そのため、その人たちが日本社会でちゃんと生きていくことができる制度を整える必要があります。

 例えば、差別を禁止する法律を作ったり、生活支援や教育支援を強化するといったことです。来日する人たちが日本の中でできるだけ問題が少ない形で生きていくことができるように、そして問題が起きたらそれをちゃんと解決できるよう制度を整えないと、社会が混乱するだけです。でも受け入れ決定した以上もう待ったなしの状況になってきました。

 明学内では「内なる国際化」というプロジェクトを進めていますが、日本社会とは異なる文化への理解を大学の中でいっそう深めていく必要があると思います。そして、そういうものを社会へ発信していく必要があると思います。世界にはいろんな文化があるということを学内で実践しそれを社会へ発信し、外国人を巡る様々な問題の発生を防いだり、あるいは問題が起きた時に解決を促していくようにしたりということがあります。

 「内なる国際化」というものをもっと強化していくことが、こうした入管法改正並びに日本社会が変わっていく中で私たちができることだと思います。学内を多文化の場にしてそこで差別がないように環境を作り、そして異なる文化圏からやってきた人たちをどう支えていくのかという議論を学内で行って、その成果を社会へ向けて発信していくというやり方です。そういうことが明学に求められると思います。

 入管法には関連しないかもしれませんが、世界には難民や国内避難民として6000万人ぐらいの人がいて、その中の多くは女性であり、若者であるのですが、大学で学びたいという人がいたらそういう人たちに明学が教育の機会を提供するプロジェクトを本格的に立ち上げるというのも、明学を多文化共生の場に変えていく上ですごく大切なことだと思います。それが日本における難民の受け入れを促進していく力になっていくかもしれません。

〇阿部 浩己(あべ こうき)国際学科教授

主なテーマは、難民の国際的保護,人権の国際的保障,国際法における植民地主義。現在、法務省難民審査参与員および川崎市人権施策推進協議会ヘイトスピーチ部会長。

主な著書に『国際法を物語る』『国際法の暴力超えて』『国際法の人権化』『無国籍の情景』『国際人権法を地域社会に生かす』『国際社会における人権』『国際人権の地平』『人権の国際化』『抗う思想/平和を創る力』『戦争の克服』(共著)『テキストブック国際人権法』(共著)など。

Share

Follow