【研究内容紹介】熊倉正修先生

▽現在の研究分野は何ですか?

 私の専門は経済学です。経済学の中でも、国際金融論と呼ばれる分野が長く関心の中心でした。

 私は大学時代に為替レートに関心を持ちました。当時(1980年代後半)は急速な円高によって日本経済が大きく動揺する一方、ヨーロッパで為替レートを安定させるためにさまざまな試みが行われていました。当時の私は英語の勉強に取り組んでいて、英語で書かれた新聞や雑誌をたくさん読んでいたので、自然にそうしたことに関心を持ちました。

 大学の専攻は文学部だったのですが、卒業後は国際金融にかかわることを目指して銀行に入社しました。最初から希望通りの仕事に就くことができたのですが、しばらく時間が経つ中で、自分の関心が実務より学問的な理解にあったことに気づきました。また、むやみに勤務時間が長い銀行員生活もあまり好きになれませんでした。

 そうしたことから、三年ほど経ったところで仕事を辞め、イギリスの大学院に進学して経済学を勉強することにしました。そのあともいったん日本に戻ってきて就職したり、いろいろと紆余曲折はあったのですが、けっきょく2002年に日本の大学に職を得て教員になりました。

 大学教員になって時間が経つにつれ、私の関心は狭い国際金融の分野から、世界や日本の経済全般や、政治と経済の関係などに広がってきています。その理由は、今日の日本の経済や政治はあまりうまくいっていないように見えるけれど、それはなぜなのだろうということを少し真剣に考えるようになったこと、そして、教壇に立つ以上、自分の関心の幅をできるだけ広く持っておくべきだと考えるようになったことです。

▽研究分野の魅力は何ですか?

 先に述べた経緯により、私の最近の関心はずいぶん幅広くなってしまい、「これが私の研究分野」と言えるものがあるのかどうかよく分からなくなってきています。
 最近は、日本の経済政策に関して、政治や社会も視野に入れた本を書いていました。私は、今日の日本の経済政策はまったく無責任でデタラメだと考えています。そして将来そのツケを支払わされるのは、たぶん現在の若い世代の人たち――つまりみなさんのような人たち――だと思っています。

 しかしただ政府を批判することにとどまらず、なぜそうした無責任な政策が横行しているのかを考えてゆくと、より深いところにある日本社会の問題が見えてきます。合理的に考えることを拒否して情緒的に物事を決めてしまったり、あとで困ることが確実な問題があっても、今すぐ対応すると軋轢が生じそうだといつまでも先送りしようとしたりといった日本の特徴は、私自身の中にも潜んでいるし、皆さんにとっても無縁でないと思います。

 そうした日本社会の特徴に関して、それでは外国には同じような問題は存在しないのか、どうしたらそうした特徴や問題を克服してゆけるのか、といった疑問は、国際理解や日本を深く理解することを目標に掲げる国際学部のみなさんにとっても重要だと思います。
 そうしたことを若いみなさんとともに考えてゆくことは、私にとって楽しい作業です。

▽今後の研究目標は何ですか?

 私は明学に赴任してから二年足らずで、まだ毎回の授業の準備に追われているため、自分の研究や勉強に十分な時間を割くことができていません。それが落ち着いてきたら、日本と外国の経済政策に関してもっと深い研究をしたいと考えています。

 それとは別に最近関心が強くなっているのは、大学の社会的価値に関することです。私は、国際学部の学生さんのみなさんは、地頭のレベルでは結構優秀だと思っています。しかしその一方で、政治や経済はもちろん、自分の身の回りを超える社会に対する関心がほとんどない人が非常に多いと感じてます。これは明学生だけの話ではなく、日本の大学生全般に言えることでしょう。しかしそうした人々が四年間も大学で過ごすことにどれだけ意味があるでしょうか。

 また、かりにみなさんが政治や社会に関心を持ち、自発的にどんどん勉強したとしても、それによってただちに卒業後の人生が見えてくるわけでないことも事実です。もともと大学は自由に学問をする場として作られたもので、みなさんの将来の仕事の準備のために設計された機関ではないからです。

 しかしそうだとすると、みなさんは大学生であっても、本音では大学の本来の目的である学問に大して関心があるわけではない、また、みなさんが卒業後に一人で生きてゆけるかどうか不安であっても、大学のカリキュラムが直接それに応えてくれるものにはなっていない、それにもかかわらず、けっこう高い授業料を支払って若い時期の貴重な四年間を社会から半ば隔離された大学という空間で過ごすということになってしまいます。それでよいのか、ということです。

 「あまりよくないのではないか」というのが私の暫定的な答えですが、ではどうしたらよいか、ということに関してはまだ確たる答えができていません。外国の事情も調べながら、大学が担える役割と担えない役割についてもう少し考えを深めたり、授業の中でみなさんの希望や関心と大学に対する社会の要請を近づける試みをしてゆきたいと考えています。ただ、これらが「研究目標」かというと、ちょっと違うかも知れません。

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