【研究内容紹介】助川哲也先生

▽現在の研究内容は何ですか?

 研究と言っても、僕の場合は高橋源一郎先生(明治学院大学名誉教授)と一緒で、研究畑じゃない所から来ました。ではなぜ、明治学院大学から招かれたかというと、自分が書いた『あん』(ポプラ文庫, 2013)という小説が世界的にヒットしたり、様々な試みでしょうか。その結果、学生たちと上手くやれるんじゃないかと判断して下った方々がいらっしゃったのです。だから、研究という事を考えて生きてきた人生ではないんですよね。結果的に、大学の教員と作家などの仕事、その双方を今やっています。

 「自分にとって大学は何だろう」という事を考えるために、自分の人生を振り返ってみました。バンドでメジャーデビューしても売れず、バンドとして全うする事ができませんでした。作家としても随分本を書いてきました。世界的なヒット作もありますが、ベストセラー作家かと言ったらそういうわけでもなくて。この質問を自分に投げかけた時に、「自分は何なのだろうか」と考え込みました。そうしてわかったのは、自分の人生は「肩書き」や「枠」ではないという事です。

 では、なぜハンセン病に注目して、「人間の普遍的な生きる意味」を追求しようと思ったのか。そのきっかけはたぶん、自分は全く志していないけれども世間から求められた仕事にあったように思います。それが、人生相談なんですね。これはずっとやらされてきた仕事でした。ラジオは最近自分から降板したのですが、今の学生が生まれる前から深夜放送をしていましたし、学生が生まれた後くらいから新聞を中心に書いてきました。それらは、一回も自分から望んだ事のない仕事でした。では、なぜやっていたのかと考えると、僕は「人の希望」や、「逆境にいる人が復活する」という事に関係している人間なんだという事が、分かってきました。だから僕の小説では、逆境の中にいる人を主役にした作品が多いです。つまり、肩書きなどではなく、もっと本質的な事に注目してきた事に、自分自身で気が付きました。

 ですので、僕が明治学院大学で取り組みたい学問は、あえて言葉にすると、「希望学」や「復活学」、「人間が人間を取り戻すとはどういう事なのか」という事を、テーマにしたいと思っています。だから結局は、バンドでやってきた事も、小説で書いてきた事も、人生相談でやってきた事も、「生きる事」を最終的には肯定したかった、全てそれに尽きると思います。それをすごくシンプルな言葉で言うと、「希望」になると思います。だから、今はまだ「希望学」なのか、「復活学」なのかよく分かりませんが、その辺りの研究をしていきたいと思っていますし、自分の人生を振り返ってみると、そういう生き方だったな、という事が見えてきました。

▽研究分野の魅力を教えてください。

 こういう生き方をしてきてしまったので、魅力も何もないのですが。ご存知のように、今人類は、コロナという得体の知れないウイルスによって、相当なピンチに直面しています。インフルエンザのような感じでいけるのか、あるいは長きに渡って影響を与えるのか、全く分からない状況で世界中が戦々恐々としています。それに伴い、どこの国の経済も大変な事になっています。このような時だからこそ、世界中が連携すべきなのですが、大国のパワーバランスが大きく変化し、きな臭い事も起き始めています。米中間のバランスが崩れ、それに影響受けて日中間もおかしくなり、日韓もわだかまりがあった事が、さらに好ましい状況ではなくなっています。

 実際に目の前に閉塞的な状況下で、「希望学」や「復活学」を机上の学問にはせず、どのような事をしていけばよいのか、改めて考えました。これを通して、大きく世間を変えようとは思っていません。そういう事ではなくて、少なくとも僕と接する学生や読者、僕の舞台を見に来る人が、「そうか、そういう道もあるかもしれない。」「人としてこういう事がありえるかもしれない。」など、何か選択肢が見えてくるような事、扉が一つ開くような事を実践的にやっていけるのかなと思っています。そして、それが今後の課題です。

 今の私たちは、理屈の上の哲学ではなく、それも大変大事ですが、それに加え「人がそれで笑顔になるのか」という、具体的な事が問われる日々だと思います。そのため、学生の皆さんと過ごす1日1日がとても大事だと思っています。オンラインで行った現代文学論の授業では、学生の皆さんも大変だったと思いますが、リアクションペーパー程度の分量だとしても、とにかく毎回の授業でレポートを課していました。合計1000を超えるすべてのレポートにコメントを返しましたので、本当に大変でした。ですが、教員と学生というより「どうやったら希望を持っていけるのか」という事を伝えるスタンスで、頑張った気がします。ですから、そういう一つ一つの事が大変大事です。

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