あとがき

 本書は、明治学院大学教養教育センターが、学部一年次生を対象に2006年度に開設した一学期完結の日本語論文書法科目、「アカデミックリテラシー1」の教科書としてまとめたものである。ただし本書では、教室での演習内容とは切り離し、スキルの解説にしぼるなど、履修者以外が独習してもなるべく混乱がないよう配慮した。

 国内の類書にも、ここ10年ほどはパラグラフ・ライティングなどのスキルを中心とする実用的なものが増えた。だが、比較的短期問の演習型授業や添削指導と併用するには、いずれも一長一短である。そこで、授業配布物のうちスキルの解説部分を集め、節やコラムを大幅に加筆し、このハンドブックを編集した。

 直接的には、第VII節を担当教育助手の田中祐介氏が、そのほかの部分を科目責任者である高木が執筆した。本書は、この科目をともに担当した同僚からの有形無形のフィードバックに多くを負うが、ことば足らずの説明や趣旨からしてあるまじき誤記は、当然ながら執筆者個人に帰する。筆者は思想史が専門であり、論文書法についても、アカデミックリテラシーについても、高等教育研究についても門外漢である。専門家には分かりきった勘違いや、改めるべき点も多々あるものと覚悟している。あとがきの常套句とはなるが、ご批正を乞いたい。

 「アカデミックリテラシー1」の教室では、おもな要素的スキルについて、本書のほかにワークシートを用いて演習を行う。また学期ごとに時事的なテーマを設定し、討論など教室でのグループワークにより資料を消化したうえで、ほぼ毎迦レポートを出題し、添削指導する。現在、毎学期10数クラス(定員15名ほど)を開講し、日本語を母語とする教養教育センター所属専任教員の半数ほどが、この授業を担当した経験をもつ。履修者のほとんどが一年次でもっとも負荷が大きいと感じるこの科目では、担当教員にも当然ながら大変な厄介をかけている。このためもあり、不格好とはなるが、小さな冊子に不つりあいに長い同僚間の謝辞を連ねたい。

 本書での要素的スキルの解説のうち、第V~VI節とコラムAおよびLは磯崎康太郎(現在福井大学所属)、鈴木義久、永野茂洋の各氏による記述を改訂・拡張するかたちで成った。まずこの点を記して感謝したい。また毎週提供する授業案と配付資料の準備を通し、猪瀬浩平、植木献、越智英輔(現在岡山大学所属)、川島建太郎(現在慶応義塾大学所属)、鄭栄桓、三角明子の各氏からの行き届いた助言がなければ、本書の記述の多くは生まれなかったはずである。

 とくにパラグラフ・ライティングや典拠表示などの要素的スキルのうち、いずれを、どのような順序で収りあげるかについて思い切りがついたのは、同僚の助言と励ましによるものである。ともに科目を担当する石渡周二、大森洋子、斎藤雅哉、鵤田彩司、西律子、仁科恭徳(現在神戸学院大学)、渡辺祐子の各氏からも、やはり一再ならずご教示をいただき、寄川条路氏にも科目を担当していただいた。また本書の分担執筆者でもある田中祐介氏は、授業担当に加え、課外の個別指導やワークショップの開催、各節の構成についての助言と原稿全体のチェックなど、多くの面でこのハンドブックの成立を支えてくれた。

 この科目は高木の着任以前に3年間開講され、大きな実をあげており、とくに注と出典表示、新聞検索の指導内容は、すでに本書に近いかたちに成っていた。またペアワークやグループワークなど、教室での活動も構造化されており、着任後学生の活動を目にしてはじめて気づいた指導上の要所も多い。これらは、筆者の実質的な前任者としてこの科目をリードした高桑光徳氏の寄与であり、とりわけ深い感謝を表したい。

 最後となるが、コラムKの転載をご快諾くださったお茶の水女子大学の外山滋比古名誉教授に、敬意と感謝を献げる。「段落」と異なる「パラグラフ」の性質をいかに伝えるか、この科目でも苫心していた。先達の機知のつまった「トウフ」と「レンガ」という寓意に、本書の目ざすところが日本語叙述の歩むべき方向と重なることを窺い知り、大いに意を強くした。

 なお本書の編集・発行に対して、明治学院大学の2011年度「教育プロジェクト」から助成を受けた。大学の理解と支援に感謝する。

 「アカデミックリテラシー1」の主要な内容を一年次生すべてに伝えようという取り組みの一環として本書を無償配布できることは、科目担当者にとり喜ばしい。本書がひとりでも多くの学生に活用され、より大学生らしい学びの一助となることを願う。

2012年3月(一部担当者名・現所属のみ更新ずみ)

高木久夫

【2015年3月付記】教養教育センター予算で独自に、2015年度も全学の一年次生に本書を手当てすることとなった。なお、前年度(2014年度)版に加えた以下の改訂を、この版でも踏襲した。即ち、田中が第VII節に改訂を施すとともに、目次のあとの「レポート・論文作成の流れと本書の参照箇所」および「コラムB」を書き下ろし、高木が第VI節、第VIII節と「コラムF」を中心に改訂を施すとともに、「コラムG」を書き下ろした。