1.大学でレポートの書き方を教える理由

 大学でレポート・論文の書き方(論文書法)を教える理由はおもに3つある2

【ポイント1】レポートの書き方を学ぶ3つの理由

  • 基本的なレポートの書き方を独習できない学生が増えた
  • スキルを教えればよいレポートが書ける学生が多い
  • レポートでもちいる批判的思考や論理的説得は社会でも役に立つ

 第一に、レポートや論文の基本的な成り立ちを知らない学生が増えたからである。この授業を担当する教師や、以前の世代の大学生はこの種のスキルを見よう見まねで身につけており、これを教える方法は日本ではまだ確立していない。大学での教育の足かせとなる問題であり、大学自身が教え方を工夫せざるを得ない。多くの主要国では、こうしたスキルを高等学校までにある程度教えているが、日本の作文教育は未だに感想文や体験作文が主体だからである3

 第二に、ある程度のスキルを教えれば、多くの大学生がしっかりしたレポートが書けるからである。多くの大学教員が体験的に気づいているが、学生の問題意識や知的好奇心そのものは必ずしも下がっておらず、問題はそれを論理的に整理するスキルの不足にある。書く技術に王道はないとはいえ、長年論文を書いてきた大学教員には、それなりのスキルがある。また論文書法が理論化された諸外国、特に英語圏の実用的スキルに触れる機会も多く、日木のレポート初心者に伝えるべきノウハウをたくわえている。

 第三に、論文書法は批判的思考や論理的説得のためのスキルの宝庫であり、学生が大学を離れたあとも長く職業や市民生活に役だつからである。書くということは漠然としたアイディアにはっきりしたかたちを与えることであり、思考とコミュニケーションには文字を使わなければ得られない次元がある。この技術をどこまで自覚的に高めるかが、ひとりの人の判断の公正さや、ほかの人びとへの影響力を一生にわたって左右することになる。

 こうした理由から、日本の大学でも論文書法教育を正課の一部とすることになったのである。


2 このハンドプック全体としては実用的なマニュアルだが、事前に知っておくぺき点として、この節ではスキルを学ぶ理由や心がまえを説明する。
3 感想文と論文の違いについては、第1節参照。