【コラムP】虚偽の因果関係 ー論理的誤りの宝庫ー

 あるものが他のものの原因であるとする「因果関係」の主張には、さまざまな誤謬が知られ、「虚偽の因果関係」とよばれるひとつのジャンルになっている。レポートの論証にはかならず理由を説明する作業がともなうので、虚偽の因果関係がまぎれこむ危険はいつもある。
 なかでも注意が必要なのが、統計的なデータから一見もっともらしく見える疑似相関である。教科書によく使われる例だが、たとえば年間のアイスクリームの売上高と水死者数は、非常に似かよったカーブで増減することが知られているとする。では水死の原因はアイスクリームと言えるだろうか。そんなことはありえず、このふたつの数値が連動する理由が夏場の暑さでありそうなことにすぐ気づくだろう。
 ここでの夏場の暑さのような共通の要因を「交絡因子confounding factor」「潜伏変数」「第三の変数」などという。交絡因子の見つかる関係は「疑似相関」と呼ばれ、当然ながらそこに因果関係を認めてはならない。
 古典的な虚偽の因果関係には、「同伴の誤謬」や「継起の誤謬」などがある。同伴の誤謬には「ツバメが飛ぶのとタンポポが咲くのは同時である。したがってツバメが飛ぶのはタンポポが咲くためである」というような主張がある。継起の誤謬には、「雷雨のあと稲穂が出る。したがって落雷がイネの出穂の原因である」というような主張がある。
 このふたつの例はいずれも日照時間や気温などの変動、つまり季節の推移そのものが共通の要因となっている。このように、統計的な論拠にもとづかない同伴・継起のような主張にも、ある種の交絡因子が関与するばあいが多い。
 交絡因子の見落としとは、原因についてのスジの悪い説明に飛びつく、ごくありふれた誤謬である。逆に言えば虚偽の因果関係が見抜けるだけで、論証の落とし穴をかなり回避でき、ひとの議論を正しく批判する機会も増えるのである。