2.このハンドブックが伝えるスキル

 論文書法の具体的スキルとして挙げるべきものは多く、中身も教え方も指導者により異なるが、このハンドプックはそのうちとくに次の4つの基礎的な技術を伝えることをゴールとする。

 スキルそのものの詳細は各節で述べるとして、ここでは「なぜ教えるか」だけ、簡単に紹介しておこう。

【ボイント2】このハンドブックで伝える4つのスキル

  • 簡潔な主張をもつ段落(バラグラフ)を単位として論文を構成する方法
  • 先行する資料を公正かつ効果的に示す、引用や典拠表示など「帰責」の作法
  • 自分の文章を批判的に手直しし、無駄なく読みやすい表現とする推敲の方法
  • 各種のデータベースをもちいた情報検索の方法

 これらのうちこれまでこのカリキュラムで指導した大学一年生が、もっとも修得に手こずるのも、身につけて役立ったと感想を述ぺるのも,第一に挙げた段落単位の論文構成法である。日本では一般に定着していない作文技術であるため、国内の大学生向けの手びきでも、最近まで取り上げられることが少なかった。あえてこれを取り上げるのは、書き手の文章力にあまり左右されず、とくに初学者にメリットが大きく、またこれに代わるり単純な論文構成の原則が見当たらないためである。

 第二に履修者が悩むのは、引用など「帰責」の作法である。引用だけでもそれなりに約束ごとが多いうえ、他人のアイディアを消化し白分のことばで言いかえる「パラフレーズ」に苦しむ。ただしこれは他人のことばやアイディアを盗んだ(剽窃した)と言われないために、欠かせないスキルである。以上のふたつのスキルが、このハンドプックのなかでレポートを書くことそのものに最もかかわる部分である。

 第三の課題である推敲は、完璧を目ざせばきりのないスキルだが、初心者がとくに陥りがちないくつかの問題点を知るだけでも文章の質は高まる。また読者の目で自分の文章をチェックする習慣は、表現のよしあしを超えて、自分の考えかたを客観的に見直すうえでも重要である。このスキルはそうした意味で、書き手として自力でどこまで成長できるかという,履修後の伸びしろを大きく左右する。

 第四に挙げた情報検索は、書き始める前に書籍、雑誌、新聞などのデータペースを検索するスキルである。履修者のコンビュータ・リテラシーにも左右はされるが、Googleなどのウェブ検索に親しんでいる学生にとっては、マニュアル的な指導でも比較的容易に身につくスキルかもしれない。

 このハンドプックは、以上の4つのスキルを、さしあたり大学での学習に困らないレペルまで引きあげることを目指す。