【コラムB】「気になるテーマ」をレポートに発展させる手順

 「問い」が立てられないと悩む書き手でも、頭には実はすでにボンヤリと「気になるテーマ」があることが多い。「気になるテーマ」をハッキリした「問い」に発展させる手順として、漠然とでもまずは(1)自分の疑問や知りたいことを書き出してみよう。たとえば近年、日本の学力が国際的にみて低下したと言われることがある。このテーマが気になるなら「日本の学力低下について」と書き出してみる。
 次に、(2)の書き出したテーマを疑問文の形に変える「日本の学カはどのくらい低下したのか」と疑問文にすれば、学力低下の実態を深る「問い」が立つ。試みに経済協力開発機構(OECD)の「学習到達度調査」(PISA)の結果から日本の順位を確認すると2006年度の調査時には前回の2003年調査と比較可能な3つの分野すべてで順位を下げたことが分かった。この事実を学力低下の客観的な「論拠」とすれば、「問い」に対する「答え」を導くこともできる。レかし「どのくらい低下したのか」という事実をたずねる「問い」は、データが見つかれば「答え」が出たようなもので、レポートー本を費やす論証としてはもの足りない。
 そこで今度は,順位(学力〕低下の原因を考えてみよう。そのためには先ほどの疑問文を3)「なぜ」を用いた「問い」に変えるなぜ日本の学力は低下したのか」という「問い」を立てたら、それに対する仮の「答え」すなわち(4)仮説を立てようたとえば「ゆとり教育によって学習時間が滅ったから」という仮説はどうであろうか。このばあい,学習時間の減少と学力低下の因果関係【第8節 1】を証明する「論拠」が十分にみつかれば、この仮説を証明することができる。
 しかし5)仮説を検証する過程で、必ずしも仮説を支持しない事実が明らかになることもある【第8節 2d】。PISAの参加国は2003年の41ケ国から2006年の57ケ国に増えており、学カに変化がなくても順位が変化する可能性がある。また、PISAで上位を占めた国のなかには、授業時間が日本より少ない国もあった。
 このように仮説に反する事実が分かっても、仮説をすぺて放棄する必要はない。むしろ(6)仮説を修正してより適切な「問い」をつくる絶好の機会と捉えよう。ここでは新たに判明した事実に基づいて仮説の前提を疑ってみる。PISAの順位低下が学力低下を意味すると即断できないならば、そもそも日本の学力は低下したと言えるのだろうか。また学習時間と学力の因果関係も明らかでないことを考えるとゆとり教育を学力低下の原因であると断定することもできない。これらを踏まえ「日本の学カは本当に低下しており、ゆとり教育がその原因なのか」という「問い」へと修正することができる2。これは最初ボンヤリと気になっていた「日本の学力低下について」というテーマに沿い、なおかつ適切な「論拠」に基づいて検証でき、「答え」を導ける「問い」である(第4節 2の【例2】にこの「問い」に基づき作成した短いレポートを紹介した)。
 この例の手順はつぎのとおりである(仮説検証以外の論証の作り方をいくつか第8節に示すので、様ざまな手順を考えてほしい)

【ポイント】「気になるテーマ」をレポートに発展させる手順の例

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1 このコラムの執箪にあたり、刈谷2002【巻末賀料】の第三章「問いの立てかたと展開のしかた」を参照した。一読をすすめる。
2 逆に言えば、PISAの順位上昇はただちに学力向上を意味しない。日本の順位が上昇した2012年の調査を受け、新聞各紙は学力の復調と報道したが、たとえば池上彰は、これを鵜呑みにはできないと主張している(『朝日断間』2013/12/20 朝刊、P.17)。