MIMを開発するに至った一つのきっかけについて紹介します。
4年生を目前に控えたA君がお母さんとともに相談にやって来ました。とても表現豊かに,熱中していたサッカーの話をしてくれました。クラブチームにも入っており,休日も友だちとサッカーをして遊んでいるとのこと。
ところが,「ちょっと,この本読んでみようか」といった途端,表情は一変しました。ほぼ2学年下の読み物でしたが,先ほどまで交わしていた会話とは別人のように,たどたどしく,自信のないものでした。読み進めていくうちに,1年生で習得しているはずの文字学習の基礎である「っ」や「きゃ」といった特殊音節が全く読めていなかったことがわかりました。この3年間,どのようにして学習に臨んできたのだろう・・・。想像していた私に,
「俺,勉強嫌い。学校には要らない存在なんだ」とつぶやいた彼。言葉通り,既に学習全般に抵抗感を示していました。
それから,彼がつまずいている最初のところに戻って,仮名文字の読み,特に「特殊音節」の読みに焦点を当て,集中的に指導を行いました。音と文字との関係が視覚的にわかるように,また自分の体を使って確かめられるように,試行錯誤しながら学習を進めていきました。すると,これまで3年間習得できていなかった彼が,しっかりと自分のものにしていったのです。
その時にこう思いました。「学習法を工夫することで習得できるのだったら,なぜもっと早くこうした手立てが打てなかったのだろう。仮名文字の読みは,国語のみならず,全ての教科,さらには生活場面にさえも大きく影響してくる。もし,もっと早く,こうした力が習得できていたのなら,彼の学習活動,生活はどんなにか変わっていたことだろう」。
つまずきを抱える子どもが,少しでも学びやすいよう,指導の仕方をあれこれ工夫することが重要なのは言うまでもありません。一方で,もし,彼(彼女)らに効果的な指導法があるとすれば,それはより多くの子どもたちにも通ずるかもしれません。そして,授業の中でこうした指導を行うことができれば,同様のつまずきを示すかもしれない子どもを未然に防ぎ,つまずかずに済む子どもを増やすことができるのではないでしょうか。
つまり,A君らに試みた指導法,つまずきを示した子どもにとって効果的な指導は,通常の授業の中で用いても,きっと効果があらわれるのではないだろうかといった考えがMIMの根底にあります。
読みのつまずきというのは,国語領域に留まらず,他の領域においても,さらには,日常生活にまで支障をきたすといっても過言ではありません。自分が読みたい本,知りたい情報に触れるにしても,このハードルは越えなくてはならず,つまずきの補償を先延ばしにすればするほど,学習や情報獲得の機会を失うことにもつながっていきます。そして,重要な領域,学習の基本となる力であるからこそ,早期に支援することが不可欠なのです。
2005年に文部科学省の在外研究員としてテキサス大学オースティン校に客員研究員として赴任しました。そこでの経験もMIMが生まれるもうひとつの大切なきっかけです。
MIMの基となったRTI(Response to Intervention/ Instruction)の考え方に触れることができたこと,Sharon Vaughn教授をはじめ,研究チームの方々との出会い。
Vaughn教授は,無償の愛で,私の研究をサポートしてくださいました。
そのご恩返しは,“日本の子どもの教育に資すること”以外にないことも教えてくださったように思います。