【コラムG】長い方を先に言うー語順の鉄則ー

 分かりにくい文章を読み返し、語順ひとつ違えば同じことばでも悩まず分かったのに、と書き手を殴めしく思ったことはないだろうか。読みづらい語順には特定の「係り」(修飾部と被修飾部の関係)のパタンがあり、単純な原則に気を配るだけで、文を読みやすくできる。簡単な例を一読しよう。

原則① 長いことばのまとまりを先に言う: 

【悪い例】水生昆虫やサンショウウオなどの両生類が絶滅した。
【よい例】サンショウウオなどの両生類や水生昆虫が絶滅した。

 【悪い例】を読むと、筆者が「水生昆虫」を「両生類」の一部と勘違いしているように見えてしまう。【よい例】のように「サンショウウオなどの両生類」を先に言えば、こうした混乱は防げる(「両生類や」のあとに読点「、」を打てば、なお確かになる)。まれに例外もあるが、「や」や「と」などで語句を列挙するぱあい、長い句(係りを含むことぱのまとまり)を語より先に言うと混乱しにくい。

原則② 「割り込み」を前に出す:

【悪い例】アリストテレスは、推論の技術を三段論法を中心に体系化した。
【よい例】アリストテレスは三段論法を中心に、推論の技術を体系化した。

 この文は「推論の技術を」「体系化した」と言うにすぎない。だが【悪い例】では両者のあいだに「三段論法を中心に」が割り込んだため、何を体系化したのか一読ではハッキリしない。とくに「‥を」の連続は、「は」や「が」の連続とならぶ(ワードプロセッサの「文章校正」機能にさえ指摘される)、悪文の代表である。【よい例】のように「三段論法を中心に」という割り込んだ句を前にくくり出すだけで、すんなり意味が通じる。語順への気配りで「三段論法は推論の技術の一部である」という背景知識まで言外に伝えられた点にも、注目してほしい。
 ひとは隣りあうことばの意味を次つぎに結びつけながら読み進む。このため、完結した長い句を先に言いきるだけで、文は読みやすくなるのである。
 ふたつ以上の修飾語(形容句)が一語に係るときも、より長い方を先に言う方が、たいてい読者を混乱させない。試しに、つぎの例を読みやすい語順に直してみよう。

【悪い例】「無能な気概のない保身に走るだけの経営者」