3.トピック・センテンスの2つの役割

 以上に見たとおり、トピック・センテンスをパラグラフの冒頭に置くだけで、レポートの論理構成はかなりハッキリする。その理由はこの節のはじめに述べたことに関係する。つまりトピック・センテンスが局所的な役割と大局的な役割を果たし、書き手に求められるふたつの作業の両立を助けるからである。

 【図1】トピック・センテンスのふたつの役割

スクリーンショット 2015-06-15 21.59.50

 トピック・センテンスの局所的な役割とは、パラグラフをひとつの論理的なまとまりに整え、積み上げやすいレンガのように形づくる、内向きの機能である。大局的な役割とは、そのパラグラフとほかのパラグラフとの関わりを築き、そのレンガがどこに積まれ何を支えるかを示す、外向きの機能である。

 精度の高い部品からよい製品ができるように、ソリッドなパラグラフからはよい文章ができる。どれほど長大な論文も単なるパラグラフの積み重ねであり、パラグラフごとに完結したまとまりがあれば、パラグラフをレンガのように並べて、文章全体の論理を組み立てられる。

a.トピック・センテンスの局所的な役割

 あるトピックがひとつのパラグラフにまとまりよく収まるかは、冒頭に置くトピック・センテンスがうまく書けるかでチェックできる。トピック・センテンスがうまく書けない場合、そのパラグラフのトピックがまだ明確でない可能性がある。パラグラフのトピックをまとめるうちに、2センテンス以上になってしまうなら、ひとつのパラグラフにまとめきれない内容を盛り込んでいる危険性が高い。トピックが適正なサイズかは、トピック・センテンスでチェックできるのである。

 パラグラフのうちのトピック・センテンス以外の文をサポート・センテンス(支持文、展開部)と呼ぶ。トピック・センテンスで提示した論点/話題/主題/主張を裏付けるために、論拠、細かな説明、具体例、言い換え、補足などを示す複数のセンテンスである。それなりの拡がりをもつトピックの全体をまとめるトピック・センテンスにくらべ、サポート・センテンスには人名などの固有名詞や数値データ、直接引用などの具体情報が多くなる。トピック・センテンスと矛盾・対立する主張は、サポート・センテンスに置かず、あらたなパラグラフに示すべきである。

 サポート・センテンスの第一センテンスは特等席である。トピック・センテンスの主張を納得させる、最強の具体的情報を歯切れよく示したい。またサポート・センテンスの数が多いばあい、最終センテンスにはやや抽象的な総括がほしくなる。長いパラグラフは《抽象的トピック・センテンス十具体的サポート・センテンス十やや抽象的サポート・センテンス》という形、短いパラグラフは《抽象的トピック・センテンス十具体的サポート・センテンス》という形になると据わりがよい。また最終センテンスに次のパラグラフにつながるキーワードを置くと、パラグラフがぶつ切れになるのを防げる。

 平均的なパラグラフでは、1つのトピック・センテンスに対しサポート・センテンスが2〜5センテンスほどになるばあいが多い。一概には言えないが、一般的なトピックのばあい、展開部が6〜7センテンス程度を越えると、その中にもうひとつ重みのあるセンテンスが現れ、別のパラグラフのトピック・センテンスとして独立させたくなる。

b.トピック・センテンスの大局的な役割

 トピック・センテンスには、パラグラフどうしの関わりに関連した、さらに実用的なはたらきがふたつある。

 まず書き手にとって重要なのが、レポートの設計図とも言えるアウトラインの役割である。論旨の明晰なレポートでは、そのトピック・センテンスを別の紙に書き出してみるだけで、アウトライン(概要=骨組み)が示せるはずである。試しに【例2】のイントロダクションとトピック・センテンスを拾い読みしてみてほしい。逆に言えば、白紙からいきなり長い文章を書き始める前に、トピック・センテンス(となるはずのセンテンス)だけをまずすべて書きならべ、全体の構成を練ることができる。設計図なしに、倒れない家を建てるのは難しい。

 なるほど実際には、周到なアウトラインを用意しても、執筆中あらたに説明を加えたり、議論の順序を戦略的に入れ替えたりする必要が生じるものである。ただしこうした際も、ひとつひとつのパラグラフがしっかりした完結性をもつなら、そのつどパラグラフをレンガのように簡単に組み替えられる。

 このアウトライン機能は、読み手にとって道しるべの役割をはたす。トピック・センテンスを拾い読みすれば、各パラグラフが何を論じるかは、小見出しを見るように一目瞭然である。レポート全体の流れと、それぞれのパラグラフが果たす役割が、簡単に確認できる。このためにも、トピック・センテンスは可能なかぎりパラグラフ冒頭に置く必要がある。