パラグラフ・ライティングの根本にある発想は、徹底した整理整頓である。
箪笥を使うとき、ふつう靴下は靴下の抽斗、セーターはセーターの抽斗へと整理して入れる。いくつもの抽斗にセーターが1枚ずつ入っていたり、セーターと浴衣を入れた抽斗が3つあったり、左の靴下用の抽斗と右の靴下用の抽斗が別々にあったりしたら、どれほど使いにくいかは明らかだろう。レポートを構成するパーツの整理が悪いレポートは読者にとって、奇妙な論理に支配される、こうした箪笥と同じである。似たような主張をあちこちで繰りかえしたり、結びつかないテーマを関連づけたり、ひと括りにするべき論点をバラバラに示したりしてはならない。パーツの分類や整理に失敗があれば、その先の論理はかならず崩れる。
レポートをひとつの箪笥とすると、抽斗にあたるのが「パラグラフ」であり、中に入れる衣類の種類それぞれが「トピック」である。Paragraphとは、トピック単位のまとまりをもつ段落のことである。ふつうの日本語作文の「段落」とは、はたらきが大きく異なる【→コラムK】。一方topicは「論点」「話題」「主題」「主張」などと訳すことが多い。
このパラグラフ・ライティングのスキルが万人向けと言えるのは、その原則がふたつしかなく、そのいずれもが単純だからである。つぎに示す「1パラグラフ1トピックの原則」と「トピック・センテンス第一位の原則」がそれである。
【ポイント】パラグラフ・ライティングのふたつの原則
- 1パラグラフ1トピックの原則
ひとつのパラグラフ(段落)に、ふたつ以上のトピック(論点/話題/主題/主張)を盛り込まない - トピック・センテンス(主題文)第一位の原則
ひとつのセンテンス(トピック・センテンス)で、パラグラフ全体の要となる結論的な主張を簡潔に言い切り、このセンテンスをパラグラフの冒頭に置く(=段落のまとめから段落を書きだす)
「1パラグラフ1トピックの原則」とは、上に述べた衣類と抽斗の比喩のように、トピックとパラグラフを一対一対応させるということである。パラグラフ・ライティングに限らず欧州言語の論文作法ではイロハのイだが、日本語のレポート書法では十分に強調されていない点である。ひとつのトピックについてはひとつのパラグラフで論じきらなければならない。
つぎの「トピック・センテンス第一位の原則」とは、パラグラフの結論的な主張を、パラグラフ冒頭の1センテンスにまとめる、ということである。箪笥であれば抽斗ごとにラベルでもつければよいが、段落ごとに小見出しがあってはかえって読みにくい。キーワードと要点をまとめた出だしの1センテンスを、見出し代わりにするわけである。
このふたつの原則に従うことで、書き手はパラグラフ単位でアイディアをハッキリまとめながら、文章全体の大きな流れを見通せるようになる。