2.レポート添削とをその例

これらの記号のうち初歩的なものが、実際にどのように使われるかを短い見本に示す【例1】。大学生のレポートにありかちな問題点を意図的に詰めこんだ架空のレポートと、そこへの添削である(実際にこれほど誤字脱字の多いレポートが提出されたら、教師は添削する前に、書き直しを求めるだろう)。まず、赤ペンで書かれた指示ひとつひとつの意味を、第1節「レポートとは何か」と第2節「推敲の目のつけどころ」の内容を反芻しながら、じっくり確認すること。

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 ここに示したとおり、添削はたんなる誤字脱字の指摘にとどまらず多岐にわたる が、レポートに足りない情報を求め、論理的な整理をうながす指示に、とくに注目 すること。また「こう直しなさい」という指示が少なく、「ここがまずい」と問題 を指摘するだけのフィードバックが多いことにも注意してほしい。

 レポートの添削は、かならずしも正解を示す「校正」や「推敲」ではない。安易に答えを示さず、受講者自身にも問題を解決させ、書き手としての自立を促すためである。すべて教師の指示どおりに打ち直せばよいのでは、ただの入力作業にすぎず、レポートを書いたことにも学んだことにもならない。添削の指示にすべて応えたうえで、さらに自力で文章に磨きをかけなければならない。指示どおりに直しだのになぜ評価が満点ではないのかという質問は、この意味で的はずれである。また大学生のレポートには様ざまなレベルの問題があり、添削ではそれぞれの水準とその時の課題に応じ、もっとも重要な問題点にウェイトを置くことになる。一度にすべての問題点を手直ししようとすると、添削の分量が余白の空間からあふれ出し、 レポート執筆者本人の消化できる範囲を超えるだろう。

 つぎに示すのは、【例1】の添削を返された受講者が知恵を絞り、さらに自力で 推敲した架空の書き直しである。

【例2】添削をうけて、提出者が【例1】をさらに推敲した例

 外来生物の脅威が指摘されて久しいが、外来種だけを敵視する論調に問題はない だろうか。
 2010年3月、佐渡トキ保護センターで、トキ9羽がホンドテンにかみ殺された (横浜新聞、2010/3/10,p.30)。ホンドテンは1950年代、増えすぎたノウサギ の天敵として佐渡に移入された(倉田、2009,p.101)。同様に伊豆諸島では、1980年代にネズミを駆除するために移入したホンドイタチにより、いくつかの固有種が激減した(同、p.95)。こうした「国内移入種」は「外来」種でないため安 易に導入され、対策も遅れたとの指摘がある(同、p.78)。
 一方で日本古来のものと思いがちな風景にも外来種が紛れている。たとえば、文 献から推定するかぎり銀杏は平安時代まで、孟宗竹は江戸初期まで全国に広まって いない(戸塚、1962,p.26-32)。海外に由来するか否かに問題の本質があるなら、 縄文時代以前の純粋な日本の生態系を取り戻すためイネも一掃すべきだ、という主 張になりかねない。
 国境のない自然についての考察に排外的な感覚を交えても、議論は混乱するだけ である。

(出典表示をふくめ473字)

 一読して、メッセージが論理的にハッキリしたことが分かるだろう。また(出典を補ったところを除いて)オリジナルから字数にして2割ほどを削ったが、主張の中身は変わらず、読者の理解に欠かせない情報もむしろ増えたことに注目してほしい(ただし何となく作文調なのは、ひとつには段落の中身がまだ論文らしい構成になっていないからである1)。


1 【例1】の添削は、じつはこの節までで説明していない手直しを要求している。ひとつは本文中の出典表示【→第5節】だが、【例2】の架空の書き手はこの作法を自力で学 び、自分がこの情報をどの資料のどのページで確認したかを、カッコのなかに略記した。 もうひとつは「トピック・センテンス」(添削のなかでは「TS」)にかんする指示だが 【→第4節】、この書き手はこの段階では指示の意味を理解しておらず、添削に応えられ なかった。