2.出典の示しかた

 以下では、1-aに挙げたうち「(2)出典を示す注」について説明する。なお外国語文献は、それぞれの記述言語の出典表示法に従うか、英語の出典表示法に統一して示すのがふつうである。外国語文献の表示法にもいくつかのスタイルがある2

a.「近年型」か、「従来型」か3

 出典表示のスタイルは大きく以下の2通りに分かれるが、どちらを用いるかは出題者(担当教員)の指示に従う。「アカデミックリテラシー1」では今日比較的よく見られる標準的なスタイルを学ぶが、細部については自分がレポートを書く研究分野の慣習に従うぺきである。出典の示し方はきまぎまだが、ひとつのレポートで両者を混ぜてはならない。形式の不統一は書き手の知的な正確さや整理能力を疑わせ、レポートの内容への信頼を損なう。

(1)近年型:自然科学・社会科学、現代のことがらを扱う研究分野で、今日標準的なスタイル。脚注(または後注)に置くのは、補足説明タイプの注(1-a(1))だけで、出典表示(1-a(2))は本文中のカッコに省略表配する。レポートの最後に、考文献リストを置き、そこに資料それぞれの正確な書誌情報を示す。「アカデミックリテラシー1」の提出物には、この形式を用いる

(2)従来型:文学・思想や歴史などで、今日も一般的なスタイル。出典表示(1-a(2))とそのほかの補足説明(1-a(1))とを区別せず、一連の注番号をつけ、注そのものの置き場所は脚注や後注とする。出典は、その資料を初めて示す箇所の注で書誌情報を省略せずに示す。このため資料点数の少ないレポートでは、参考文献リストを省略することが許されるばあいがある。「アカデミックリテラシー1」の提出物には、この形式を用いない

b.本文中の出典の表示法

(1)近年型:注番号を用いず、本文中での注記(1-b(3))とし、丸括弧のなかに(著者の姓、西暦発行年、参照したページ)を省略表記する。【第3節・例2】もこの形式である)。

 近年型の本文中の出典表示でとくに大事なのは引用元のベージである。本文中で書名や筆者の名、出版社名などの情報を省略できるのは、すでに述べたように、そうした情報を参考文献リストに詳しく示すからである(2-c(1))。本文中の出典表示のうち、最初のふたつの情報(筆者の姓と出版年)は、参考文献リストでその資料の詳しい書誌情報を見つけるためのインデックスである。

【ポイント1】近年型の本文中での出典の示し方(各資料については【例1】を参照)

(藤沢、1998、p.26)  
(エーコ、p.98-100) ←翻訳書
(広田、2002、p.135) ←論文集の一編
(井筒、1980、p.82) ←雑誌記事
(日本経済新聞、2010/11/1・朝刊、p.4) ←一般の新聞記事
(亀井、2003、p.7) ←新聞社外からの寄稿

 個人の著者名は姓のみを示す。著者名のあつかいで注意が必要なのは、新聞に掲載された資料である。新聞社の記者が書いたストレート・ニュースでは、海外支局の署名記事などもふくめ、著者名として記者の個人名ではなく新聞名を示すのが一般的である。一方、新聞社外の外部寄稿者による論説などでは、ふつう著者名として新聞名ではなく個人名を示す。

 本文中の出典表示に発行年を示すのは、おなじ著者による異なる資料の区別をつけるためである。同一の著者による同一発行年の資料をふたつ以上使うばあいは、ふつう「2009a」「2009b」などと略記し、それぞれの略号がどの資料を示すかがハッキリ分かるよう参考文献リストに示す(2-c(1))。新聞記事のばあい、本文中の出典表示に年月日と朝・タ刊の区別まで示すのが一般的である。ただし新聞記事や雑誌記事でも、個人名を著者として扱うばあいは、同一著者の同一発行年の資料がほかになければ、西暦年号のみを示せぱよい(【ポイント1】第6例の「亀井」のように)。参照した文献の奥付に、様ざまな版や刷の年号が並んでいるばあい、原則として使用した版の初刷の年号を示す。

 引用元ページの表示は、「アカデミックリテラシー1」では和書でも洋書でも「p.99」という形に統一する。和書のばあい「99頁」、洋書のばあい「P.99」と区別するスタイルもあるが、横書きではいずれも「p.99」とすることが多い。またページを示す「p.」のピリオドの前後にはスペースを入れない【→コラムF】。「p.」のピリオドの後にスペースを入れるスタイルもあるが、見づらく一般的ではないので、「アカデミックリテラシー1」では、スペースを入れない形式に統一する。引用簡所が複数の頁にまたがるばあい、「p.98-100」とする形式と、「pp.98-100」とする形式とがある。「pp.」とする方が古典的だが、日本語の論文のばあい、一方に統一さえすればふつうはどちらでも構わない。この点は出題者(担当教員)それぞれの指示に従う。

 原則的には、他の文献から借りたアイディアや表現については、それらを含むセンテンスひとつひとつに、何らかの出典の表示をつけるべきである。ただしこのやり方は、レポートを出典表示だらけで読みづらくする。同ーページへの参照が続くばあいは「(同上)」、同一資料の別ページへの参照が統くばあいは「(同、p.123)」と省略する。また最低限の表現で、他人と自分のことばやアイディアを区別するコツについては後述する。【→第6節 4】

(2)従来型:本文中には注番号だけを記し、出典は脚注や後注に記す。注での書誌情報の示し方は、従来型参考文献リストでの表記【例2】と基本的に同じであり、最後に参照元のページを付ける点だけが異なる。先に述べたとおり初出箇所の注で書誌情報を略さず記すので、短いレポートでは参考文献リストを省くことも多い。同一文献を複数箇所で出典として示すばあい、2カ所目以後では、「同(書)」(既出箇所とのあいだに他の資料がないばあい)、「◯◯、前掲書」(既出箇所と離れているばあい・◯◯には著者の姓)などと略記する。

c.参考文献リストの表示法

 レポートの最後に「参考文献」などという小見出しをつけたセクションを設け、書籍、論文、記事など用いたすべての資料を列拳する。書式は統一し、著者の姓名、出版社名などは略さない。レポートなどでは、とくに指示がないかぎり直接引用・参照した資料だけを示し目を通したが使わなかった資料は挙げない4

 当然だが参考文献リストに個々の参照ページは示さない。それぞれの引用・参照箇所ごとにおなじ資料のどのページを参照するかは異なるからである。ただし雑誌論文や新聞記事などは、それぞれ掲載された範囲を示すのが一般的である。

 参考文献リストでは、資料は著者の姓の五十音(またはalphabet)順に配列するが、新聞記事では本文中での出典表示と同じく、外部寄稿者の論説をのぞき、著者名に代えて新聞名を先頭に立て、これを筆者の姓に代えて順序を決める。新聞記事など時系列が意味をもつ資料を数多く引用するばあい、リストの中に「新聞報道」などと小見出しをつけたコーナーを設け、発行日順に配列しても整理しやすい。

 書名など、ひとつの資料全体のタイトルは『二重カギ括弧』で示し、論文集のなかの論文や新聞や雑誌のなかの記事など資料の集合体の一部なら、タイトルは通常の「一重カギ括弧」で示す。掲載範囲を示すページ数に「p.」をつけないスタイルや、「頁」「面」などをつけるスタイルもあるが、統一すればいずれでもよい。「アカデミックリテラシー1」の提出物では「p.」をつける方式を用いる。なお参考文献リストに単著の書籍(ひとりの著者が1冊全体を書いたもの)を示すばあいは、当然ながら掲載範囲は示さない。

 もちろん訳者氏名、編者氏名、雑誌名、新聞名などは、あてはまらない資料には必要ない。ふつう出版社名や発行機関名は、維誌名から明らかなばあい省略できる。また岩波文庫や中公新書のような著名シリーズについては、ふつうこれを出版社名に代えることを認める。雑誌の発行時期は、年月までとするか年月日まで示すかを、発行頻度にあわせて判断する。新開の版については、本社(全国紙のばあい東京本社)最終版の記事のばあいはふつう省略し、地方版や早版のみに掲載した記事や、地方版や早版でしか確認できなかった記事のばあいのみ表示する5。以上の注意点は近年型と従来型の参考文献リストいずれにも当てはまる。

 一つの文献の情報が2行以上にわたるばあい、必要な資料を見つけやすくするため、【例1】のように、2行目以降は行頭を2~3文字分あける6

(1)近年型:著者名の直後にカッコに入れた出版年が続くスタイル。「アカデミックリテラシー1」の提出物ではこの方式を用いる

【例1】近年型の参考文献リストでの書誌情報の示し方(タイプ別・順不同)

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 上記の例を一般的な原則として示せば、次のとおりである。

【ポイント2】近年型の参考文献リストでの書誌情報の示し方(タイプ別)

筆者氏名(発行年)『書名』出版社名
筆者氏名(訳者氏名)(発行年)『書名』出版社名
〔↑翻訳書〕
筆者氏名(発行年)「論文名」編者氏名『収録書名』出版社名 p. 掲載範囲
〔↑論文集の一編〕
筆者氏名(発行年月)「論文/記事名」『収録雑誌名』巻(号〕:p. 掲載範囲
〔↑雑誌記事〕
『新聞名』発行年/月/日朝タ刊禰別(版)「記事主見出し」p. 掲載面
〔↑一般の新聞記事〕
筆者氏名 発行年/月/日「記事主見出し」『新聞名』朝タ刊種別(版)p. 掲載面
〔↑新聞への寄稿論説など〕

 【例1】には示さなかったが、同一の著者の同一発行年の資料をふたつ以上挙げるばあいは、参考文献リストのなかの発行年にも「2009a」「2009b」などという区別をつけ、本文中の出典表示にも対応する略号を用いる(2-b(1))。もともとの論文名に一重カギ括弧「 」があるばあい、論文名をはさむ一重カギ括弧と区別するため、二重カギ括弧『 』に書き変える(この点は書き換えたことを明示しなくてもよい〕。

(2)従来型:出版年が後の方に来るスタイル。

【例2】従来型の参考文献リストでの書誌情報の示し方〔タイプ別・順不同〕

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 上記の例を一般的な原則として示せば、次のとおりである。

【ポイント3】従来型の参考文献リストでの書誌情報の示し方(タイプ別)

筆者氏名『書名』出版社名、発行年。
筆者氏名(訳者氏名)『書名』出版社名、発行年。
〔↑翻訳書〕
筆者氏名「論文名」編者氏名『収録書名』出版社名、発行年、 p. 掲載範囲。
〔↑論文集の一編〕
筆者氏名「論文/記事名」『収録雑誌名』巻(号〕、発行年月、p. 掲載範囲。
〔↑雑誌記事〕
『新聞名』「記事主見出し」発行年/月/日・朝タ刊種別(版)、p. 掲載面。
〔↑一般の新聞記事〕
筆者氏名「記事主見出し」『新聞名』 発行年/月/日・朝タ刊種別(版)p. 掲載面。
〔↑新聞への寄稿論説など〕

 従来型では個々の出典を注に記すが(2-b(2))、初出箇所の注では書誌情報を略さず、二度目以降は略記するのが一般的である。初出箇所の注での書誌情報の示し方は,『ポイント3】と基本的には同じであり、唯一の違いは最後に個々の引用・参照元のページを示すことである。【ポイント3】の体裁で書誌情報を示したあとに(あるいは掲載範囲に代えて)、参照したページを示せばよい。先に述べたとおり従米型では、この初出箇所の注で書誌情報を略さず記すので、資料数の多くないレポートでは参考文献リストを省くことも多い。

(3)ウェブ上の情報の参照とその表示法:大学でのレポート・論文ではふつう、Wikipediaなどインターネット上の情報を論拠とすることを認めない。ウェブ上にはだれでも情報を公開でき、内容に深刻な誤りや悪意にもとづくウソがあっても著者・運営者がペナルティを受けることはまずない。この仕組みのため間違いが多く、また訂正されにくいからである。とくにウェプ上の匿名の情報を参照するのは、電車のなかのウワサばなしを典拠とするのと大差ない。【第7節 2(a)】

 だが印刷媒体資料が入手できないなどやむをえないばあい、出題者がインターネットからの引用を認めることがある。ウェブ上の資料と書籍などの印刷媒体資料では、示すぺき情報や参考文献リストでの表示法が大きく異なるが、一般的な例を示しておく。

【例3】参考文欧リストでのウェブサイトからの引用の示し方

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上記の例を一般的な原則として示せば、次のとおりである。

【ポイント4】ウェブサイトへの参照について参考文献リストで示すべき情報

著者またはサイト運営主体 ←個人名・団体名を示さないものは引用すべきではない
記事の日付 ←表示があるばあい
コンテンツの標題・情報テーマ  
参照したページのURL ←サイトのトップページのURLでは役に立たない
情報取得日 ←自分がそのウェブページを最後に確認した年月日

 なおウェブサイトから引用するなら、自衛策としてかならずそのページ全体のデータを自前の記憶メディアに保存(キャッシュ)しておくこと。サーバ上の情報は一瞬で消され、書き換えられる。そのとたん、自分の引用に捏造や改竄がないことを示す証拠の一片もない出典となりかねないからである。


2 出題者(授業担当者)の指示がないかぎり、英語圏で標準的なChicago Manual of Styleの出典表示法(http://www.chicagomanualofstyle.org/tools_citationguide.html)が無難である。無料オンライン版も用意される。本書巻末資料も参照。
3 「近年型」「従来型」という呼称は小笠原2009【巻末資料】に倣った。
4 研究分野によっては、使っていない資料を参考文献に挙げるのを不正行為と見なす。そこまで厳しくないばあいでも、水増しや筆者への義理だてのために本筋に関係ない資料を並べると書き手の公正さやセンスが疑われかねない。
5 特殊な訂正がないかぎり、縮刷版の内容を本社最終版と見なしてよい。国内の全国紙ではタ刊最終版を4版、朝刊最終ブを14版とする。ストレートニュースを扱う面では、編集の過程で記事が頻繁に差し替えられ、削られる。このため早版と最終版では内容が異なることがある。
6 ワードプロセッサでは、タブ設定やスタイル指定でこうした体裁を調整する。Wordでは「ぶら下げインデント」と呼ぶ(出版界ではふつう「突き出しインデント」と呼ぶ)。