【コラムI】要約のスキルはなぜ有益かーパラフレーズとは何かー

 要約とは、ある文章が何を主張するのか(その文章がどのような問いに、どのように答えるのか)を適確に読みとり、自分のことばで簡潔に言いかえることである。「要約」と呼ばれる作業そのものは、高校までの授業で経験ずみだろう。ただこれまでの要約で、「問い」「答え」「論拠」という論証の三要素を取り出す、という指導を受けた者は少ないだろう。レポートを書くさいに求められるのは、各段落を一様に縮めて並べたあらすじではない。論証の三要素、そのなかでもなぜそう言えるのかという「論拠」に注目した要約である。【→第1節・3】
 レポートを書くさいには、自分の議論の流れにあわせて資料の情報を消化し、自分の主張の論拠として適確に取り入れることが大切である。もとの資料で大事そうに見える箇所を手当たりしだいに写しても、自分の論証にうまく組み込めず、あっという間に字数制限も超える。とくにインパクトのある部分は資料のまま「引用」するとしても、大部分は自分のことばに「言いかえ」(パラフレーズ)をして示すことになる。【→第6節】
 自分のことばで簡潔に言いかえるというパラフレーズの作業は、じっさいにはトピックのまとまりに即して要約するのとほぼ同じである【→第4節】。実はさほど難しくない。どうしても資料の丸写しになってしまう時は、理解できるまで読み、資料を見ずに書く。自分のことばになるはずである。
 この要約作業の現実的なメリットは、レポートの全体設計が固まる前に、レポートの一部を書き始められるという点にある。資料から自分の関心に即した論点をいくつか選び、よい要約を集めておくと、それをうまく配列することで、論証の大筋が見え、その多くはパラフレーズとしてそのまま本文に使えるのである。こうして要約が集まれば、そこから次第に何を議論すべきかが見え、さらに関連する資料を探し、必要な要約を増やして行くこともできる。
 かつてはこうした要約を、論点ごとにA6判ほどの大きさの情報カード(ノートカード)に手書きし、レポートの準備をした。いまは論点ごとにコンピュータに打ち込んでおくだけで、使いやすい素材を用意できるのである。